参与観察をしている私設応援団を足場に、2009年に新設されたマツダスタジアムにおいて、観察や聞き取り調査を行った。2008年までホームスタジアムとして使用した旧広島市民球場では、ライトスタンドを中心に、応援団毎に異なる場所で応援しており、外野自由席の特定の数カ所の場所が暗黙の了解で応援団に占有されていた。しかしながら、新球場での私設応援団の活動場所は、ライトスタンドの2階席で、ホームベースから最も離れた所にあるパフォーマンス席という指定席の一箇所にまとめられることになった。パフォーマンス席の一郭にトランペットや太鼓の鳴り物を使って応援するエリアが設けられていた。私設応援団の中には、今までのような応援ができないことへの不満があったが、新球場での応援が始まると、球団に与えられた場所は応援を快適に行うことができ、それなりの秩序が形成された。 人々を規制する手段には「法」、「市場」、「社会規範」、「アーキテクチャ」という4つのモードがある。パフォーマンス席の設置は「アーキテクチャ」に相当するものであり、人々が行為を行う空間のあり方に操作を加えることによって、その行動をコントロールすることが可能になるのである。アーキテクチャの権力の特徴は、人々をある特定の行動を取らざるを得なくするシステムとなっているが、人々に自分たちが支配されているという意識を感じさせない点にある。つまり、人々が行使されている権力に気づくことなく、事前に人々の行為が制約されるのである。そこでは、知らないうちにある一定の行為可能性の枠の中に閉じ込められるだが、その枠の中では行為選択に制限が加えられておらず、消極的な自由が享受されることになる。アーキテクチャによる行動規制は、スタジアムの空間管理において有効な方法であることが明らかになった。
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