プロ野球の私設応援団・後援会の参与観察を継続し、この集団を足場として、特別応援許可規程による応援活動への影響等について調査した。特に昨年に引き続き、応援妨害予防等請求事件に注目し、関係者への聞き取りや関連文献を検討することによって議論を深めた。 裁判の判決では、プロ野球において、どのようなサービスが提供されるのかは主催者に委ねられているとされた。確かに、チケットを購入して球場に入り応援を楽しんでいるという点においてプロ野球の私設応援団は消費者であるが、球場において応援という商品を生産しているという点においては生産者でもある。それはトフラーが言うところの「生産=消費者(プロシューマー)」に相当するものである。プロ野球において興行主が提供するサービスの消費者であったファンの中から自発的に私設応援団が形成され、彼らが集合的応援を演出することによって、球場の多くのファンは応援というプロダクトを享受し、それを消費しているのだ。 日本野球機構は特別応援許可規程によって応援団方式の応援を興行の中に位置付けることとなったが、「応援妨害予防等請求事件」は、興行主である日本野球機構や球団が、プロシューマーであった私設応援団を、データベース化による管理によって、自らの生産活動の中に囲い込んだために起こったと言える。この裁判において、被告らが請求したことは、応援団方式の応援を行うことを「その中止や退場を求め、あるいは退場させ、又は今後の入場を禁止することを告知するなどして妨害してはならいない」ということである。つまり、自由に応援することを要求したのである。この事例は、スポーツの市場メカニズムへの抵抗が、スポーツをめぐる事象に結集する人々のネットワークによって形成されたことを示している。「応援妨害予防等請求事件」から、市場の強力な力に抵抗するファンの姿を見ることができる。
|