本研究の目的は、「黒人」と呼ばれる人間集団に固有の運動能力があるとする想定を、科学的根拠が存在しないにもかかわらず一つの言説として広く受け入れられていることを根拠に「神話」あるいは「ステレオタイプ」として規定し、この神話/ステレオタイプが出現し、伝播してきた経路を解明し、「黒人身体能力神話/ステレオタイプの浸透」=「歴史的、文化的に構築された現象」に生得的、遺伝的根拠があるとする想定を批判的に再検討することである。この目標を達成するために2つの立場を設定する。その第1は、「神話/ステレオタイプ」の浸透を国際的な広がりをもつ現象として捉え、その起源と形成・普及の過程をグローバルな視点から、とりわけスポーツ大国として、これまで多くの「黒人」アスリートを産出してきたアメリカ合衆国(以下アメリカ)の占める役割と位置に注意を払いつつ、明らかにしようとするものである。第2は、「神話/ステレオタイプ」の浸透におけるすぐれて日本的な、つまりにグローバルな水準に照らすと日本においてきわめて無批判に「神話/ステレオタイプ」が受容される状況に注目する立場である。
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