運動の苦手な学習者は、体育授業中自ら進んで運動に取り組まない。それは、それまで運動の成功体験やそれにより周りから認められた経験がほとんどなく、むしろミスや失敗をしたことで仲間にからかわれたり叱責されたりした体験が少なくないからである。この傾向は学年が上になるほど深刻になる。他方で、体育教師はそのような生徒たちに対する指導方法に日々思い悩んでいる。本研究では、運動の苦手な生徒に焦点づけた効果的な指導方法について検討した。運動の苦手な生徒に対して教師が積極的に関わり適切に指導できるようになれば、彼らはしだいに運動に取り組めるようになり技能成果の向上が期待できるからである。 本研究では、高校の体育授業を対象に苦手意識をもつ生徒が多い器械運動の授業に着目して、どのような準備と授業中の働きかけを行えば、すべての生徒が技の習得に積極的に挑戦し楽しむことができるかを明らかにしようとした。具体的には、先行研究の結果から導かれた優れた器械運動の授業づくりに着目して、(1)多様な場の設定、(2)評価基準を明確にした学習ノート、(3)教師の教授行為という3視点から授業実践に取り組んだ。その結果、基礎的・基本的な技の習得をめざした場の工夫や、生徒の幅広い運動技能や関心に対応した多様な場を設定することによって生徒は能力レベルに応じて技能成果を達成することができた。また、毎時間すべての生徒に技の習得に繋がる予備的運動に取り組ませた結果、基本技はもちろん難しい技にも挑戦し習得できる者もみられた。また技の評価基準や動作課題を明示した学習ノートや掲示物を活用した結果、生徒たちはお互いに技術的なアドバイスを行い積極的に学習することができた。さらに一人ひとりの生徒の記述内容に対して教師は丁寧にコメントを書いて返却した結果、教師と生徒の理解が深まり積極的な関わりがうまれ肯定的な授業の雰囲気に繋がっていた。 これらの結果から、生涯スポーツの基盤づくりの最終段階である中学校・高等学校における運動の苦手な生徒たちを中心に、運動に対する動機づけの観点から彼らが運動に熱心に取り組み、仲間とともに運動することのすばらしさを体験できるような、効果的な体育授業の進め方を明らかにすることができたと考える。
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