研究概要 |
本研究は,受傷することによって生じる情動的反応であるストレスとストレス負荷の定量的評価となるメンタルヘルスパターン(橋本・徳永,2000)に着目したアプローチから,競技生活から一時的離脱を余儀なくされた選手の心理的・社会的側面を明らかにし,精神的ストレスの軽減と早期回復を図る心理的治癒対応の基礎資料を作成することを目的とした. 結果,(1)スポーツ傷害・障害別,受傷環境別,競技種目別の比較では,いずれも明らかな心理的・属性的要因に関する差は見られなかった.(2)受傷直後の自己意識では,悲観的感情と楽観的感情が混在する回答がみられた.また,ハビリテーション期間中の精神状態に関する回答では,傷害の影響によって後悔や焦燥感,罪悪感,不安,自己否定などの忌避的対応がみられ,様々な精神的ストレスを生起させていることが判明した.逆の回答では,自分自身を静観し,復帰に向けてリハビリテーションを行っている様子が伺えた.(3)精神的健康度の傾向について検討した結果,傷害未経験者は傷害経験者と障害経験者よりも心理・社会的ストレスが有意に高い傾向を示し,へとへと型が多くみられた.全体の結果では,「へとへと型」と診断された該当数は3割弱となり,「ふうふう型」も含めると半数近くの選手はメンタルヘルスが低い傾向を示していた. 以上から,本研究は,受傷時の心理的・社会的傾向について明らかしたが,傷害時の心理的対応策はリハビリテーション等の事後策だけに止まらず,選手の競技生活で発生する心理的問題をサポートすることが傷害発生の予防策としても必要であると考えられる.この予防策の一環として,認知的評価の個人差に着目し,ストレス負荷の低減を目的としたストレス・コーピング(ヨガの呼吸法)をおこない,結果,心身の調律を促進する効果が認められた.
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