研究概要 |
低酸素刺激は低酸素誘導因子(HIF)-1αの発現を促進することで, 生体に各種の適応性変化を引き起こすことが知られている. 通常酸素下において, HIF-1αはprolyl hydroxylase (PH)の作用によって発現が抑制されている. 近年, PH抑制剤であるethyl-3, 4 dihydrobenzoate (EDHB)の投与がマウスの持久的運動能力を向上させることが報告されている. 本研究はEDHBの投与が骨格筋の毛細血管新生と代謝酵素活性に及ぼす影響を検討した. 実験には, 12週齢のWistar系雌ラットを用いた. EDHBは100mg/KgBW/dayで週に月〜水曜日の3日間, 3週間投与した. ずり応力増大による二次的な血管新生刺激を排除するため, 赤血球数の有意な増加を起こさないよう, 間欠的なEDHB投与を行った. 投与後の体重, Hct値, Hb濃度及びヒラメ筋重量には変化が見られなかった. 投与によって, ヒラメ筋の毛細血管密度が対照群の837±34(/mm2)から1006±34へと有意に増加した. また, capillary-to-fiber ratioも対照群の2.0±0.04から2.2±0.04へと有意に増加した. 筋の酵素活性ではヘキソキナーゼ活性が投与群で有意に増加したが, クエン酸合成酵素, 3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素, フォスフォフルクトキナーゼ, 乳酸脱水素酵素には変化が見られなかった. これらのことから, PH抑制による低酸素刺激は, 骨格筋において, 毛細血管新生と解糖系代謝を促進することが示唆された.
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