研究概要 |
低酸素刺激は低酸素誘導因子(HIF)-1αの発現を促進することで,生体に各種の適応性変化を引き起こすことが知られている.通常酸素下において,HIF-1αはprolyl hydroxylase(PH)の作用によって発現が抑制されている.近年,PH抑制剤であるethyl-3,4 dihydrobenzoate(EDHB)の投与がマウスの持久的運動能力を向上させることが報告されている.本研究はEDHBの投与が骨格筋の運動依存性毛細血管新生に及ぼす影響を検討した.実験には,12週齢のWistar系雌ラットを用いた.EDHBは100mg/KgBW/dayで週に月~水曜日の3日間,3週間投与した.ずり応力増大による二次的な血管新生刺激を排除するため,赤血球数の有意な増加を起こさないよう,間欠的なEDHB投与を行った,運動群には走行運動を3週間負荷した.投与後の体重,Hct値,Hb濃度及びヒラメ筋重量には変化が見られなかった.ヒラメ筋の毛細血管密度は投与群と投与+運動群で有意に増加した.capillary-to-fiber ratioは,運動群,投与群及び投与+運動群において同等に有意に増加した.免疫組織化学染色の結果,投与群でHIF-1αとVEGFのタンパクレベルの発現が顕著に増加していた.これらのことから,PH抑制による低酸素刺激は,骨格筋において毛細血管新生を引き起こすが,運動依存性毛細血管新生に及ぼす影響は少ないことが示唆された.
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