特定のスポーツ活動に3年以上参加していない健康な若年成人を対象に、上・下肢の並行運動の困難さと脳の準備状態との関係について検討した。被験者には、立位にて、上肢ないし下肢による左右側交互の周期運動時に他肢による両側同時の一過性運動を反応課題で可能な限り速やかに行わせた。周期運動の頻度は毎分100回とし、上肢では左右側交互の周期的掌屈運動とし、下肢では左右側交互の足踏み運動とした。一過性運動は、上肢では掌屈運動とし、下肢では踵挙上運動とした。一過性運動は、警告刺激(S1)-反応刺激(S2)-反応課題パラダイムを用いて周期運動中に実行させた。S1とS2には、2KHzの音刺激を用いた。S2の提示タイミングの予測を容易にするために、S1とS2の時間間隔は2秒に固定した。S2の提示タイミングは、周期運動における左右側それぞれの手掌ないし足底が接地した時点から、0ms、200ms、400ms遅れた時点とした。随伴陰性変動(CNV)は、国際10-20法に基づくCzから導出した。眼球電図を同時に記録し、眼球電図とCNVの振幅変動が100μVを超える試行を除外し、各S2提示タイミングで20回以上の加算平均を行った。 一過性の踵挙上運動を行った場合の掌屈運動の周期の変化は、いずれのS2提示タイミングにおいても、一過性の掌屈運動を行った場合の足踏み運動の周期の変化に比べて大きかった。S2が提示される1秒前からS2提示時点までのCNVの最大振幅は、周期的掌屈運動中に一過性の踵挙上運動を行った場合の方が、足踏み運動中に一過性の掌屈運動を行った場合に比べて高い値を示した。これらの結果から、周期的上肢運動に対する一過性の下肢運動の干渉の程度が、周期的下肢運動に対する一過性の上肢運動の干渉の程度に比べて大きく、前者の並行運動では運動課題を遂行するための注意が強く向けられていることが示唆された。
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