本研究は、萎縮したラットヒラメ筋の回復過程において、温熱負荷、抗酸化食(アスタキサンチン、Ax)摂取、さらにそれらの組み合わせが萎縮からの回復を促進させるか否かについて、筋タンパク質合成ならびに分解に関わる細胞内シグナル伝達系から検討した。 実験には8週齢のWistar系雄ラットを用い、対照(C)群、尾部懸垂(HU)群、尾部懸垂+温熱負荷(Heat)群、尾部懸垂+Ax摂取(Ax)群、尾部懸垂+温熱負荷+Ax摂取(Heat+Ax)群にグループ分けし、C群を除く全ての群に10日間のHUを施した後、通常飼育による後肢への再負荷を行った。尚、Heat群、Heat+Ax群には、懸垂解除直後に42℃、1時間の温熱負荷を施した。また、Ax群、Heat+Ax群には、HU直後から飼育終了時までAx含有食を摂食させた。HU解除直後、3日後、7日後にヒラメ筋を摘出し検討した。 10日間の尾部懸垂により、ヒラメ筋重量は有意に低下した。HU解除後、7日間の再負荷によりヒラメ筋重量は有意に増加し、その増加はHeat群、Ax群、Heat+Ax群で顕著であったが、温熱負荷とAx摂取の組み合わせによる相乗効果は認められなかった。Akt-mTOR系タンパク質合成シグナルならびに分解系シグナルのタンパク質発現量は、C群を除くすべての群で、回復3日目に著しい亢進が観察されたが、C群を除く各群間に有意差は認めちれなかった。一方、HSP72発現量は回復3日および7日目にHeat群およびHeat+Ax群において、C群と比較して有意な増加が見られた。 これらのことから、萎縮からの過程において熱ストレスあるいはAx摂取は、相対筋重量の回復を促進するが、これらの組み合わせによる相乗効果は見られなかった。この機序として、熱ストレスによって増大したHSP72の細胞保護・修復機能によるものであることが示唆された。
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