研究概要 |
骨格筋の活動低下によって生じる廃用性筋萎縮は、エネルギー消費を減少させ、肥満や代謝性疾患発症の原因となる。グレリンは、成長ホルモン分泌と摂食に機能する消化管由来のペプチドホルモンであり、末梢投与によって摂食亢進に機能する唯一の内因性ペプチドである。従って、グレリン補充による廃用性筋萎縮の抑制・改善効果が期待される。本年度は、マウス骨格筋を用いてin vitroでのグレリン作用を検討すると共に、グレリン投与によるマウス骨格筋肥大について後肢懸垂マウスを用いてin vitroで検討した。まず、未確定であった骨格筋のグレリン受容体発現をRT-PCRにより確認し、グレリンが骨格筋に直接作用する可能性を示した。しかしながら、グレリンは、in vitroでは成長ホルモンと異なり、イノシトール3リン酸のリン酸化から始まるリン酸化経路(Akt,S6等)を始めとして、カルシウムを介したリン酸化経路等、骨格筋の蛋白合成亢進に結びつくシグナル伝達系を変化させなかった。一方、マウスへのグレリン皮下投与は、筋蛋白合成に関与するインスリン様成長因子-1(IGF-1)合成に重要な、成長ホルモン(GH)受容体下流シグナル(STAT5)のリン酸化のみが亢進した。グレリンは、血中GHレベルを約20倍増大させるが、このGH濃度はAktの活性化には十分でなく、STAT5のみを活性化した。グレリンの後肢懸垂中のマウス(予防効果)もしくは、後肢懸垂解放後のマウス(治療効果)へのグレリン投与は、コントロールに比べて筋萎縮が抑制もしくは、早期回復が認められた。グレリン投与は、成長ホルモンの分泌を促進し、筋組織中IGF-1の発現促進を介してグレリンの抗萎縮効果が機能している可能性が考えられる。今後遺伝子改変動物や加齢促進モデル動物を用いてさらに検討が必要である。
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