本研究の目的は、空間識研究の一環として動体視力のメカニズムを解明することである。空間識とは空間すなわち外界に対する自己の位置、方向、傾斜、運動などの認識であり、その中で当初はdynamicな"運動"に注目した研究を計画していたが、今年度は研究内容をstaticな"傾斜"へとシフトさせた。これは、国際宇宙ステーションを利用した宇宙実験の国際公募に本研究申請者が提案した「長期宇宙滞在中の空間識の適応的変化」に関するテーマが採択され(平成22年6月)、宇宙実験としては"傾斜"を評価する研究がより重要であると判断したためである。実験は、1)奈良県立医科大学、2)奈良先端科学技術大学院大学、3)航空自衛隊航空医学実験隊にて実施した。いずれも健常成人を対象とし、奈良県立医科大学では暗所にて座位と立位、頭部直立と頭部傾斜条件にて自覚的重力軸を評価し、奈良先端科学技術大学院大学では大型スクリーンと傾斜椅子を用いて身体傾斜and/or頭部傾斜条件における各種視覚条件と自覚的身体軸評価の関係を検討し、航空医学実験隊ではパイロット訓練用の空間識訓練装置を用いて遠心力を利用した各種重力環境下における自覚的重力軸および自覚的身体軸を評価した。さらには同時にroll傾斜によって誘発される回旋性眼球運動を測定し、傾斜に対する自覚的評価と他覚的評価の関係を検討した。現在、詳細なデータ解析を進めているところである。
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