生後10週齢雄の高血圧自然発症ラットと正常血圧コントロールラットをそれぞれ運動群と非運動群に分けた。運動群については、トレッドミルを用いて30m/分x30分x3週間の高度な運動負荷を行った。所定の期間の運動終了後、麻酔し、脳を取り出し、脳切片を作製して各種組織染色を行った。SHR運動群の3割のラットに、核が濃縮して細胞全体が萎縮した、いわゆる"ダークニューロン"が脳の海馬錐体細胞層を中心に観察された。一方、非運動群(高血圧ラットと正常血圧ラット)や、正常血圧ラットの運動群にはダークニューロンはみられなかった。また、運動群は非運動群に比べて酸化ストレスマーカーの一つであるカルボニル化タンパク質の免疫染色性が増強していた。高血圧ラットの血圧は正常血圧ラットに比べて、50〜60mmHg程度高かったが、高血圧ラットの運動群と非運動群とでは血圧の差はなかった。ダークニューロンは虚血や酸化などの侵襲性のストレスが加わった際に出現することから、運動によって脳に酸化負荷がかかったことが推定される。この際、高血圧ラットの脳は正常血圧ラットよりも酸化負荷に対して脆弱であることが示唆される。高血圧症患者の運動療法においては、脳にとってより酸化ストレスの少ない運動条件を設定する必要があると考えられる。今後、脳の運動障害の機序を明らかにするために、酸化ストレスの定量化、高血圧ラット脳の運動負荷に対する脆弱性の原因分析、運動中止によるダークニューロン回復の有無、などについて検討する予定である。
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