暑熱ストレスは、温度という物理量の変化によって生じる生理的なストレスとして生体に作用するが、これに加えて生体内で活性酸素を生じさせるので酸化ストレスとしての特性も合わせ持つ。皮膚の血管運動は人の体温調節に重要な機能の1つであるが、この機能に酸化ストレスがどのように影響するのかについては不明な点が多い。暑熱ストレスが人の生体内でも酸化ストレスとして作用するならば、ビタミンCのような抗酸化物質の皮膚内投与によって投与部の皮膚血管反応は変化すると考えられる。本年度は全身加温時の皮膚血管拡張反応に及ぼすビタミンC投与の効果について検討した。健康な大学生ボランティア10名を被検者とし、皮膚内マイクロダイアリス法によって前腕皮膚2カ所に生理食塩水あるいはビタミンC(L-アスコルビン酸、10mM)を投与し、投与部の皮膚血流量を連続測定した。その間に温水循環スーツを用いて全身加温を行ない、皮膚温を約4℃、深部体温を約1℃上昇させた。皮膚血管コンダクタンス(CVC)は皮膚血流量を平均血圧で除して求めた。正常体温時において、CVCはビタミンCの投与によって有意に(P<0.05)増加した。全身加温中のCVCはビタミンC投与部の方が非投与部に比べて高い傾向が認められた(P<0.1)。健康な若齢者において、正常体温時の皮膚血管運動は酸化ストレスによって収縮性に影響されること、および全身加温時の皮膚血管拡張は酸化ストレスによって抑制性に影響されることが示唆された。
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