シックハウス症候群と診断された児童・生徒およびシックハウス症候群が疑われる広汎性発達障害の児童・生徒を対象に、(1)親からの聞き取りによる生活状況、(2)WISC-IIIの実施、(3)毛髪サンプルによるミネラルバランスの調査(調査対象者と居住を共にする家族も含む)、(4)居住空間及び敷地内の屋外における化学物質濃度調査を行い、その結果を分析した。 今年度実施した化学物質濃度の調査の結果、対象者家屋のTVOCは、居間、寝室などの居住空間において、すべて厚生労働省の指針値を下回った。 生活状況については、アレルギー症状が軽減し、学校での適応も良好であった。学校での化学物質の使用や、教室内での他の生徒の防虫剤使用衣類による暴露に対しては、自分の体調を意識し、退避するなどの防衛措置をとることができるようになっていた。 知能検査の結果は、統計処理が可能な症例数を集めることはできなかったが、対象者全員の言語性IQと動作性IQとの差は標準偏差内になっていた。 平成20年度より継続して行った毛髪検査の結果では、シックハウス症候群の場合には、家族全員が類似のミネラルバランスの傾向を示したが、広汎性発達障害の場合には、家族とは異なる傾向を示していた。 今回の調査では、化学物質測定結果から対象者の環境の改善が認められた。経過が良好である場合には、知的発達や社会的適応において改善する可能性のあることが認められた。 広汎性発達障害のケースでは、シックハウス症候群の事例よりTVOCが高濃度のケースがあった。このケースでは医師による診断がなかったため、対象者および家族は、自覚ないままに生活していた。日常症状の悪化に影響している可能性があり、今後の診断において、化学物質暴露の可能性を視野にいれる必要性があることを指摘したい。
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