肥満に随伴する代謝異常が大腸発がん感受性に及ぼす影響を、代謝関連キナーゼSnarkをコードする遺伝子を破壊したマウスをモデルとして検証することを目的とした。通常の飼料、運動条件の飼育環境下で化学発がん剤アゾキシメタンにより誘導される大腸腫瘍(腺腫)および前腫瘍性病変の頻度を検討したところ、Snark欠損マウスでは有意に発がん感受性が増加することが明らかとなった。一方同様の飼育条件下ではSnark欠損マウスでは有意な脂肪蓄積の増加が認められ、大腸前腫瘍性病変の発生頻度が体重に相関して上昇することが示された。これは、疫学的に示されてきた肥満がヒト大腸癌発症の危険因子となることと矛盾しない結果であり、Snark欠損マウスが肥満と大腸発がんの関連性の検討に適したモデル動物であることを示唆している。Snark欠損マウスでは肥満に伴い、高脂血症、高コレステロール血症、高血糖といったヒトのメタボリックシンドロームに類似した代謝異常が認められた。さらにSnark欠損マウスに見られる肥満と代謝異常は、高脂肪食の投与により増悪する一方、自発運動の増加によって軽減することが示された。また通常の運動条件ではSnark欠損マウスでは個体の酸素消費量が低下しており、基礎体温も有意に低くなっていること、自発運動の増加によって有意な基礎体温の上昇が観察されることも確認された。これらの結果はSnark欠損マウスが生活習慣の変化が全身の栄養代謝機構に及ぼす影響を検証する際にもすぐれたモデル系となることを示唆しており、今後の代謝異常と発がんの関連を明らかにする研究への応用に有用であると考えられた。
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