適度な運動が大腸発がんのリスクを低下させることは疫学研究等で明らかにされているが、その生物学的根拠には不明な点が多い。AMPK関連キナーゼSnarkノックアウト(Snark+/-)マウスでは血清IL-6の基礎量の低下が認められたが、骨髄由来単球のIL-6産生能には変化が見られず、骨格筋、脂肪組織のmRNAレベルにも異常は認められなかった。一方Snark+/-マウスでは肝組織中のIL-6 mRNAレベルが顕著に低下していた。さらに肝細胞癌由来HLF細胞を用いたレポータージーンアッセイでは、SNARKの過剰発現によりIL-6プロモーターの活性化が観察され、組織特異的にSnarkがIL-6発現を調節している可能性を示唆した。Snark+/-マウスで低下していた血清IL-6の基礎量は自発運動により正常化し、同時に通常飼育時のSnark+/-マウスで見られた低体温、高脂血症およびアゾキシメタンに誘導されるaberrant crypt foci (ACF)、腺腫形成が改善された。同様の改善は組換えIL-6の投与でも認められたが、IL-6遺伝子を欠損させたSnark+/-マウスでは運動による効果が見られなくなった。また高IL-6血症を伴い腸腺腫を発生するApcMin/+マウスではSnarkノックアウトはIL-6濃度を低下させず、大腸腺腫形成にも影響を及ぼさなかった。これらの結果から、比較的軽負荷の運動によりもたらされる非炎症性のIL-6基礎量の維持が、大腸発がん感受性と代謝異常の抑制に寄与していることが明らかとなり、Snarkノックアウトマウスが生活習慣の改善によるがん予防のモデルになりうることが示唆された。
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