本研究の目的は、紀伊半島南部の民家の特性と変容を住生活的視点から解明することである。その内容は、(1)平面構成を通して住生活の特性と変化を明らかにする、(2)紀伊半島の特徴的な自然風土条件である、台風時や横殴りに降る風雨から家屋を守るための、建物の特性と変容を明らかにする、の二つから成る。 平成20年度は、紀南地方の和歌山県東牟婁郡古座川町や那智勝浦町、新宮市を対象として、目的に従い調査を実施し、すでに資料整理、考察を行なっており、今年度、成果を発表する予定である。 その成果としては、(1)主屋の平面構成は、土間部分と床上部分から成り、全てが平入形式である。出入口から続く土間形態は、通り土間型と前土間型に大別される。床上の間取り形式は、大きく5つに分類できる。間取り形式は地域的な違いが認められ、並列型と二列型の中間的な間取り形式である「L型土間並列一部縦二列型」は、田辺市本宮町の熊野川中流域で集中してみられた。大半の型ではカッテが1室下手に張り出した平面構成をとる。その多くは竈がカッテの土間境に据えられ、焚口は床上側に向く。そのために、カッテは炊事、食事、団欒の場であった。土間は農作業の減少により増床され、縮小傾向にある。昭和30年代以降は、プロパンガスや椅子座の普及、さらに昭和50年代以降は、近代的な床上ダイニングキッチンの普及で、炊事場とカッテに大きな変容がみられる。 (2)紀伊半島の特徴的な多雨、台風常襲といった自然風土条件と建物との関係性においては、家屋の妻側や平側軒先に雨除け板を付ける、屋敷を石垣で囲う対策がみられる。敷地の多くは山間部に位置するために横長で背後に山留めされた高い石垣が迫り、屋敷前方や横にも石垣を配し対応している。
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