本研究の目的は、紀伊半島南部の民家の特性と変容を住生活的視点から解明することである。その内容は、(1)平面構成を通して住生活の特性と変化を明らかにする、(2)紀伊半島の特徴的な自然風土条件である、台風時や横殴りに降る風雨から家屋を守るための、建物の特性と変容を明らかにする、の二つから成る。 平成21年度は、紀南でも紀伊山地の中央部である、和歌山県東牟婁郡北山村や新宮市熊野川町、田辺市本官町を対象地域とした。目的に従い調査を実施し、すでに資料整理、考察を終えている。20年度までの成果を21年10月に日本家政学会関西支部で発表した。また、21年度までの蓄積を、22年5月に日本民俗建築学会大会で、6月には日本建築学会近畿支部で研究成果を発表するため、投稿済みである。 研究成果として、(1)では、主屋の平面構成は土間部分と床上部分から成り、平入形式が大半であるが、北山村では妻入りもみられた。出入口から続く土間形態は、L型土間型と前土間型が主である。床上の間取り形式は、地域的な違いが認められ、とりわけ、田辺市本宮町では、昨年度と同様に「L型土間並列一部縦二列型」に属する家屋が集中していた。また、熊野川町では、十津川型に近い平面構成もみられた。大半の型ではカッテが1室下手に張り出した平面構成をとる。その多くは竈がカッテの土間境や床上に据えられ、焚口は床上側に向く。カッテは炊事、食事、団欒の場であった。昭和30年代以降はプロパンガスや椅子座の普及、さらに50年代以降は、近代的な床上ダイニングキッチンの普及により土間は縮小傾向にあり、炊事場とカッテに大きな変容がみられる。 (2)では、昨年度地域と同様、家屋の軒先に雨除け板を付ける、屋敷を石垣で囲う対策がみられた。敷地の多くは山間部に位置するため横長で背後が山留めされた石垣が迫り、屋敷前方や横にも石垣が配される事例が多い事が明らかになった。
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