本研究の目的は、紀伊半島南部の民家の特性と変容を住生活的視点から解明することである。その内容は(1)平面構成を通して住生活の特性と変化を明らかにする、(2)紀伊半島の特徴的な自然風土条件である台風時や横殴りに降る風雨から家屋を守るために、建物の特性と変容を明らかにする、の二つから成る。平成23年度は最終年度であるために、当初は前年度までに遂行できなかった内容や不足している調査資料を補うための研究活動に取り組む予定であった。とりわけ、平成22年度に実施した三重県西部の東紀州では調査件数が少なく、和歌山県にはみられない平面構成が確認されたために重点的に行った。一方、紀南地方は台風12号の影響で道路が寸断され、補足調査ができなかったため、東紀州から紀伊半島東部に地域を拡大して新たな地域の調査・研究に取り組んだ。 研究成果で特筆すべきは以下の様である。目的(1)の平面構成に関しては、東紀州では和歌山県の影響を受けたカッテが張り出す型が主流であり、東部の志摩地方では固有性の強い志摩型が占めている。その中間域は両地域の平面構成が混在し、さらに北部の宮川領域では異なる平面構成が分布しているといった地域特性がみられた。これらの平面構成も土間の縮小化や衛生空間の主屋内化、カッテの分化等の変容を経ながら、昭和40年代には中廊下型の平面構成へと変容する。目的(2)に関しては、防風雨対策としての屋敷構えでは、東部に行くに従い石垣よりも生垣が広く分布している点が把握された。志摩市阿児町国府では防風飛砂のために、生垣以外に敷地を掘り窪める対策が行われてきた。一方、家屋の対策としては、板囲い、雨戸敷居の排水口、台風時での雨戸の閂受けがあげられる。石垣は比較的継承されているが、生垣は維持管理の問題から低くなる傾向にあり、板囲いはトタンに変化している。雨戸敷居の排水口はアルミサッシに変化しても継承されているが、閂受けは消滅していることなどが明らかになった。
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