研究概要 |
前年度までに,塩蔵ダイコンの抗変異原性物質としてパルミチン酸やα-リノレン酸を主とした遊離脂肪酸の存在を明らかにしてきた。そこで,本年度は加工工程による脂肪酸の消長と製品中の分布を明らかにし、塩蔵ダイコンとタクアン漬け製品中の機能性脂肪酸の動態を検討した。その結果,最も食品成分が溶出しやすいと考えられる脱塩・圧搾工程において,塩蔵ダイコンと比較して脂肪酸含量に違いはなく,極性の低い脂質・遊離脂肪酸の溶出が認められなかったことを明らかにした。また,市販製品の分析結果から,干しタクアン漬けにおいて,全脂肪酸および遊離脂肪酸ともに多く含まれていた。この結果は,他のタクアン漬けとの比較により,全脂肪酸に対する遊離脂肪酸の存在比の高さは,干すことによる単なる濃縮効果だけでなく,熟成効果に違いが現れることが明らかになった。次に,青首ダイコンを用いて異なる条件下で塩蔵ダイコンを試作し,脂肪酸生成のメカニズムを明らかにするとともに,その他の品質に関わるアミノ酸,糖,有機酸についても経時的な変化について解析を行った。その結果,塩蔵ダイコンの成分変化の差はダイコンの脱水方法に依存し,陰干し後の塩蔵ダイコンでは,プロリン,コハク酸,スクロース,そして不飽和脂肪酸の蓄積が見いだされ,これらは塩のみで脱水させた塩蔵ダイコンではあまりみられない成分である。本年度の研究成果は,伝統的な手法でつくられる干しタクアン漬けの優位性を科学的に裏付けるものとなり,塩押しタクアン漬けが主流となりつつある漬物業界の中で“干す"という一手間を加えることで機能性,呈味性に関しても期待できるタクアン漬けになることが明らかになった。
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