世界各地のパンや伝統的な小麦粉発酵食品の中には、酵母以外の多種類の微生物が存在し、各国の気候風土にあった独特の材料や製法がある。これまで探索を続けてきた伝統的小麦粉発酵食品をみると、パン酵母のみではなく、Bacillus属等が複合的に存在しているものがあった。その中でプロテアーゼ活性の強い、Bacillus属は、低アレルゲンに利用されるコラゲナーゼ様酵素活性がみられた。今回、この低アレルゲン作用に注目し、伝統発酵食品から分離された微生物酵素と酵母を用いたパンを作成した。材料となる小麦粉の選定、パン作成方法等も検討した。パンからたんぱくの質抽出を行い、たんぱく質の挙動と解析を行い、低アレルゲン化の可能性を探索することにした。 これまでの実験結果から、国内産小麦粉は、外国産小麦粉より小麦アレルゲンが低い傾向を見出している。パンの主要原材料である小麦に国内産(岐阜県産)の小麦粉を使用した。また、主材料の小麦粉については、粒度の面からも検討を行い、製粉の違いによる製パン性の違いも明らかにした。 抽出したたんぱく質について、一次元および二次元電気泳動の結果、たんぱく質の分解がみられた。抗原抗体反応においても微生物酵素を添加したパンは、コントロールに比べ、バンドが薄くなっており、低アレルゲン化の傾向が見られた。しかし、一方でコントロールにはみられなかった新規のバンドやスポットの出現がみられた。作成した各パン試料の小麦アレルギーを検出するため、ELISA法での測定を行ったが、試料による値のばらつきが大きかった。アミノ酸組成については、高速液体クロマトグラフィーを用いて分析を行った。微生物酵素を添加したパンでは、コントロールに比べて数種のアミノ酸に増加傾向がみられた。また、パンの作成方法による違いも認められた。アレルゲン部分の解析は現在も継続実験を行っている。
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