本研究では、ヒト細胞表面多糖に類似した構造を持つ天然ヘテロ硫酸化多糖である多様なカラギーナンの組成を、迅速かつ簡便に決定する手法を確立することを第一の目的としている。カラギーナンは食品添加物として多用されているにも関わらず、それらがヒトの健康に与える影響に関する議論は現在も続いている。本手法は食品中のカラギーナンを構造特異的に検出・同定する技術であり、食の安全評価における極めて重要な技術である。 昨年度までに、深海微生物由来の酵素群を用いてカラギーナンを低分子化し、得られるオリゴ糖を分離モードの異なる3種のHPLC分析により同定し、その構成糖を決定する方法を確立した。本年度は、これらの生理活性(毒性)を評価するために必要なカラギーナンオリゴ糖の大量調製条件検討を行った。まず、カラギーナンの特異的低分子化に必要な深海微生物由来カラギーナン分解酵素のうち、大量生産の困難であったイオタカラギーナン分解酵素について、組換え酵素大量生産条件、酵素精製条件、反応最適条件などの検討を行った。本酵素の組換え酵素を、枯草菌を宿主として大量生産し、既報生産量の100倍以上の高生産を達成した。本酵素の生化学的諸性質の解析を行ったところ、本酵素の最適反応温度は約50℃であり、一般に粘度の高い多糖類混合物を、粘度が低下する高温域で処理することが可能であることが分かった。続いて酵素反応により得られたオリゴ糖の構造をNMRにより解析し、イオタカラギーナンに特徴的なピークの帰属を行った。続いて、カラギーナンがヒト細胞に与える影響を調べるための評価系の構築にも着手した。
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