研究概要 |
2年目になる今年度は,脳波解析の精度を上げるために,初年度に作成した脳波の周波数解析ソフトウエアーをさらに改良させた. 改定版の周波数解析ソフトは周波数帯を任意に定めることができ目的帯域を取り出すことが可能である.この改良ソフトを用いて健康成人9名の嚥下時の脳波を解析した.周波数特性を分析するために,δ,θ,αそしてβ波の4つの周波数帯域を設定して2種類の食物摂取時と水の飲水時の脳波を採集して,摂食前と後,飲水前後で検討を試みた.その結果,ご飯とプリンの嚥下前後で比較すると嚥下後はδ波帯域の占める割合が有意(p<0.01)に増大し,他の帯域は減少していた.特にC4領域では,ご飯の摂食においてθ波とα波に有意(p<0.01)な減少がみられた.一方,飲水および嚥下においては前後で周波数特性の変動が見られなかった.このことより,摂取した食物の形態(固形物,液体,硬度など)や味,匂いなどが受容器から神経活動を誘発させ,脳活動に影響を与えていることがわかった.さらに脳波全体の電位が摂食後に低下がみられたことから,脳神経は活性化の状態が生じていることが予測された. 次の実験では,健康成人に対して,水とビスケットの指示嚥下(飲水)と強制嚥下(飲水)を行い比較検討した.水の場合は指示嚥下と強制嘸下ともに連続嚥下を繰り返すと頸部の筋放電時間の遅延がみられた.ビスケットにおいても強制嘸下では遅延が確認された.すなわち連続嚥下は気道の閉鎖に時間を要するために,誤嚥につながる危険性を確認できた.さらにビスケット(固形食物)の嚥下において食塊形成時間の長い人は嚥下時間も延長する傾向があることがわかった.高齢者において,咀嚼機能が低下した場合,嚥下時間が遅延することがわかっているので誤嚥の危険性が高くなることが予測される.
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