平成22年度には、食餌中の亜鉛不足がマウス体内の亜鉛結合タンパク質をはじめとする金属タンパク質に与える影響および亜鉛欠乏状態からの亜鉛投与による回復の様子を微視的に調べることを目的とした。この目的のため、亜鉛欠乏餌を与えて飼育したマウス、亜鉛欠乏餌を与えて一定期間飼育したマウスに亜鉛を与えたマウス、飼育期間中、終始、亜鉛を与え続けたマウスの計3通りのマウスの肝臓、膵臓および精巣細胞の可溶性画分を分離した。その後、タンパク質の量的変化についてはゲルろ過クロマトグラフィー、SDS-PAGEおよび二次元電気泳動により、微量金属の濃度変化については機器中性子放射化分析(INAA)、原子吸光分析(AAS)および荷電粒子励起X線発光(PIXE)分析を行うことにより検討した。 INAAの結果で食餌中の亜鉛が欠乏すると著しく亜鉛濃度が低下していた膵臓については、ゲルろ過クロマトグラフィー後のSDS-PAGEの結果およびPIXE分析の結果から、鉄が関与していると推定される約20kDaのタンパク質が現れること並びに銅-亜鉛SODに何らかの物質が結合した形の存在およびその状態のものが消失するという知見が得られた。これらの現象が膵臓のどういう機能に影響を与えているのかは不明であるが、今後、亜鉛欠乏に起因する糖尿病との関連性について検討していきたい。 亜鉛欠乏状態にした後に亜鉛(塩基性炭酸亜鉛)を与えたマウスの精巣細胞の可溶性タンパク質についての二次元電気泳動の結果を亜鉛欠乏マウスおよび正常マウスの精巣細胞の可溶性タンパク質のそれと比較することにより、亜鉛欠乏マウスには存在していなかったタンパク質が亜鉛投与により順次合成されていく様子を認めることができた。今後は、これらのタンパク質と生殖機能との関連性について検討していく予定である。
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