研究概要 |
本研究の目的は,タンパク質栄養の変動による脳タンパク質合成の調節メカニズムを明らかにすることである。今年度は,成長ホルモンの役割について明らかにするため,脳下垂体摘出成熟ラットを用いて脳タンパク質合成への影響を決定した。 24週齢の雄ラットを,擬似手術群,脳下垂体摘出群,脳下垂体摘出+成長ホルモン投与群の3群に分け,成長ホルモン投与は解剖前7日間0.02mg/100gBWを毎日皮下注射した。Garlickらの^3H-Phe大量投与法により大脳,小脳,海馬,脳幹のタンパク質合成即を決定し,併せてRNA/Proteinを測定することで,RNA activityを算出した。 脳の各部位のタンパク質合成速度並びにRNA activityは,脳下垂体摘出で有意に低下し,成長ホルモンの投与で,対照群レベルまで回復し,脳におけるタンパク質合成速度とRNA activityの間には,強い正の相関が観察された。一方脳の各部位のRNA/Proteinは脳下垂体摘出で減少したが,成長ホルモンの投与で回復しなかった。それ故,脳下垂体摘出や成長ホルモンの投与は,成熟ラットにおいて,RNA濃度よりもむしろRNA activityを調節し,脳タンパク質合成に影響する要因の一つとして示唆された。今後次年度以降,1)脳タンパク質合成の開始過程に及ぼすタンパク質栄養の影響,2)血中成長ホルモン,脳アミノ酸濃度に及ぼすタンパク質栄養の影響について検討し,タンパク質栄養による脳タンパク質合成のメカニズムの詳細についてさらに明らかにすることで,高齢者の脳機能に対するタンパク質栄養の役割について飛躍的示唆を得られるものと考えられる。
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