胎生期の栄養状態が成長後の糖脂質代謝異常、心血管障害に関与することが報告されている。本研究では、ストレプトゾトシン処理により人工的に発症させた糖尿病妊娠モデルラットを作成し、この親から生まれた仔・孫における親の糖尿病の影響を検討した。モデルラットに普通食(C)、高脂肪ラード食(L)、高脂肪魚油食(F)をそれぞれ与え、6群(C-C、C-L、C-F、D-C、D-L、D-F)で実験を行った。 これまでに仔や孫ラットの生化学検査を行った結果、高脂肪食をラットに与えた場合では仔の出生時血糖値や中性脂肪値が高くなり悪影響を及ぼすことを報告した(Nasu et al. Endocrine J 2007に発表)。今年度は分子レベルで仔、孫ラットへの影響を検討するために新生仔心臓に着目して実験を行った。心臓より抽出した可溶性蛋白質を用いて、インスリンシグナルのAkt、p38、ERK、JNKのそれぞれについてリン酸化レベルを測定し解析を行なった。 仔の代ではAktのリン酸化レベルは糖尿病ラットの普通食(D-C)、ラード食(D-L)、魚油食(D-F)ではコントロールラット(C-C)と比較して有意に減少した。p38のリン酸化レベルは糖尿病ラットの普通食(D-C)やラード食(D-L)で高値を示したが、魚油食(D-F)では低下する傾向が認められた。 これまで糖尿病妊娠ラットが高脂肪食を摂取すると、血糖値や血清脂質で異常が認められたが、分子レベルでもAktやMAPキナーゼのリン酸化によりインスリン抵抗性が亢進していることが分かった。母体糖尿病の悪影響が新生児の心臓においても示された。これらの結果から母親が糖尿病であると生まれた仔は親の糖尿病の影響を受け、さらに胎生期の栄養状態がそれらを悪化させると考えられた。
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