研究概要 |
天然原料より作られたサプリメントには,高齢者に多い神経変性疾患との関連性が指摘されているアルミニウム(Al)およびマンガン(Mn)が多く含まれているものがあること,また,AlおよびMnの加齢マウスへの長期間曝露が回転カゴでの活動量の低下を引き起こす可能性があることを昨年度までの研究で明らかにした。また,32週齢ラットに,乳酸アルミニウムおよび塩化マンガン水溶液(それぞれAlおよびMnとして10,100,1000mg/L)を19ヶ月間飲料水として自由摂取させ,ステップ・スルー型受動的回避学習試験を行った結果,対照群に比べて,Al投与群では,記憶能の低下は認められなかったが,Mn投与群においては,用量依存的に記憶能の低下が認められることが明らかになった。今年度は,行動試験終了後,ラットを解剖し,血清について生化学検査を行った。さらに,脳を摘出し,AlおよびMnの脳への蓄積性をマイクロウェーブ分解後,ICP-MS法により調べた。また,人の微量元素の過剰摂取の可能性を調べるため,幅広い年代層の人を対象にアンケートにより,サプリメントの摂取状況および意識調査を行った。血清の生化学検査の結果,コントロール群に比べて有意に値が上昇している指標はなかった。このことより,AlおよびMnの長期投与により,肝毒性,腎毒性,膵臓毒性,電解質異常は認められないことが示された。脳へのそれぞれの元素の蓄積性については,コントロール群と比べてAl低用量投与群でAlが,Mn高用量投与群でMnの若干の脳への蓄積が見られた。アンケート調査の結果,現在サプリメントを摂取している人は,健康に気を使って食事をしている人が多く,現在摂取している人の66.0%が毎日飲用していた。また,サプリメントの種類としては,天然原料のものが多かった。サプリメントの常用による微量元素の過剰摂取の可能性があることが示唆された。
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