研究概要 |
本研究は,児童・生徒が学習内容を理解し自力で考察をする際に必要とする形式的思考操作を行う能力を伸ばすことに焦点を当てたカリキュラムと授業プランについて,英国で顕著な成果を挙げているCASE(科学教育による認知促進)プロジェクトを理論的・実践的に検討しながら,日本の学習環境で利用可能な教材ならびにその効果の検証方法を開発すことを目指している。具体的には,(1)研究協力校における,CASEプログラムの教材『Thinking Science』全体を網羅する継続的な授業実践と検証,(2)児童・生徒の認知能力を測定する調査問題『Science Reasoning Tasks(SRTs)』の妥当性・信頼性の検証,(3)CASEプログラムの概念・教材を用いた現職教員研修を行うことによる日本の教育現場における活用の可能性の検討,を中心に行っている。本年は昨年度までの成果をもとに,初年度に組織した複数の大学・現職教員で構成する研究会を中心に,上記(1)~(3)について総合的実践・検討を行った。 (1),(2)については,本学附属小学校(2校)の5,6学年(332名)を中心に,SRTs(Task 2)による評価を実施し,その結果を積極的に授業構成に反映させた理科授業を開発し,複数回実施した。その結果,各授業において評価結果から予想される思考の発達段階に応じた異なる反応があり,授業者の予想を上回る質の高い活発な討論がクラス全体を巻き込んで起こり,学習効果も高いという結果を得た。 (3)については,本学にて京都府下の現職教員(約20名)を対象に毎月1回(計7回)の「CASE教員研修講座」を実施した。その結果,受講者の現状の問題意識と合致し,9割を越える受講者がCASEの視点における授業の重要性・必要性を理解し,実際にこの視点を組み込んだ小中学校の理科授業プランが受講者により開発・実践され,現場で実践可能な複数の授業プランが開発された。しかしながら,現場での本格実施および普及に際しては,教員をとりまくさまざまな環境や教育制度上の問題等も明らかになり,今後も本学が継続的に支援していく必要性が確認された。
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