研究概要 |
1.アルコールの酸化(芳香のあるアルデヒドの合成) 昨年度までの検討で,水溶液中,ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の存在下に調製された陰イオン界面活性剤一体型酸化マンガン(IV)によって,ベンジルアルコールからベンズアルデヒドへの水溶液中での酸化が,極めて円滑に進行することが見出されている。しかし本系をシンナミルアルコールの酸化に適用した場合は,得られるシンナムアルデヒドの収率が低かった。そこで用いる界面活性剤の種類など反応条件を検討したところ,添加するSDSの量を増加させることによって,アルデヒドの収率が改善することが見出された。得られた知見を元に実験プランを立て,東洋英和女子学院高等学校において授業実践を行った(対象:2年生,3年生)。アルデヒドの確認は,銀鏡反応と生成物の芳香の確認という,視覚と嗅覚の両感覚を利用する方法で行った。ベンジルアルコールの酸化で得られるベンズアルデヒドは杏仁豆腐様の苦扁桃臭,シンナミルアルコールの酸化で得られるシンナムアルデヒドはシナモン臭を示し,いずれも身近な食品に含まれる臭気であるため,実験後のアンケートでは嗅覚面での生徒達の興味・関心が極めて高く,銀鏡反応による視覚面の興味・関心を上回る結果が得られた。また本実験が,有機化学実験特有の臭気による負のイメージを払拭する教材となることもわかった。 2.陽イオン界面活性剤によって加速されるベンゼンの臭素化 昨年度までに,希硫酸中で臭化カリウムと臭素酸カリウムを用いるベンゼンの臭素化が,陽イオン界面活性剤である臭化ドデシルトリメチルアンモニウムにより加速される現象が見出されている。そこで本反応をマイクロスケール実験教材とするための検討を行った。予め臭化カリウムと臭素酸カリウムをモル比2:1で混合した合剤を利用することで実験操作が簡便となり,生成物をマイクロポーラスフィルムに吸収させてバイルシュタインテストで確認することにより,揮発性有機溶媒の使用を回避できる実験法を考案した。一連の結果をまとめて,「化学と教育」誌(日本化学会)に論文を投稿し,8月号に掲載された。
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