研究概要 |
ベンゼンの臭素化については平成21年度までに研究が完了したので,平成23年度は,アルコールの酸化と,ベンゼンの臭素化とアルコールの酸化の両研究で得られた知見を活かした"エステルのけん化"の実験教材化を検討した。 平成22年度までに,水中で有効に機能する酸化剤である陰イオン界面活性剤一体型酸化マンガン(IV)を開発し,ベンジルアルコールおよびケイ皮アルコールを基質とするアルコールの酸化の実験教材を検討した。得られるアルデヒドは,それぞれ特有の芳香を有しており,教育現場や現職の教員を対象とする講習会でも「有機化学の臭いによる負のイメージを軽減する実験」として好評を得た。得られた成果をまとめ「化学と教育」誌(日本化学会)に論文を投稿し,8月号に掲載された。 ベンゼンの臭素化の研究で得られた知見から,陽イオン界面活性剤の有機触媒としての機能に着目し,難分解性エステルである安息香酸ベンジルのけん化反応を,陽イオン界面活性剤で加速するというアイディアを得た。種々の陽イオン界面活性剤を検討した結果,塩化テトラデシルベンジルジメチルアンモニウムが効果的な触媒であることを見出した。これによって,けん化実験における水酸化ナトリウム水溶液の濃度を従来よりも低下させ,生徒実験を安全かつ迅速に行うことができるようになった。反応後の系中にはベンジルアルコールの油滴が存在するので,これをマイクロポーラスフィルムによって吸収・分離して,上記の陰イオン界面活性剤一体型酸化マンガン(IV)と反応させると,ベンズアルデヒドの芳香を観察することができる。また分離後の水相に希硫酸を加えると,安息香酸の結晶が析出する。これらの操作によって,けん化反応の生成物を検出することができた。
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