研究概要 |
手を取って物に導くことは視覚障害者への有力な空間認識手段である。彼らに物の位置を示す場合はクロックポジションで方位を説明する。例えば食事の際に,"おかずが12時の方向","スープが5時の方向","ご飯が7時の方向"などと説明する。本研究は,このような目の前の物の配置,さらには手の誘導を援助者なしに行う支援,すなわち,視覚障害者に近接物の位置や状況を理解させる自動支援システムを構築することを目的としている。目標とする手の誘導支援は,物の配置を音声等でクロックポジション指示し,物に向かう手の移動や障害物回避の仕方などを提示する。最終的には,近接空間の認知創生を訓練するシミュレータとして,空間把握や作業支援に展開することを目指している。 本年度は,昨年度に引き続いて空間把握手法の開発,特に距離場空間モデルに基づく移動可能領域・移動不能領域を,それぞれ解析することを行った。距離場空間モデルは空間占有問題を取り扱うことができるので,作業空間内で手が滑らかに移動できる領域を求める問題,最適な誘導経路を求める問題が解決可能であり,このアルゴリズムとシミュレーション実験,および,訓練シミュレータとしての機能開発も検討した。また,本年度は研究最終年度であるので,システムによる空間把握手法,音声・触覚等で被験者に空間情報を伝達する手法,最適な(移動距離が短く障害物を安全に回避できる)誘導経路の算出手法,および,これらのシミュレーション実験と評価・分析を通して,システム全体をまとめることも目標とした。距離場空間で求めた空間の占有状況や誘導経路情報は,全盲者の近接空間認識訓練シミュレータとして,彼らの認知地図の創生に適したデータを提供できることが確認できた。
|