研究概要 |
本研究では,作業療法を目的とした障害者のための音楽教材の開発について提案する.作業療法は,身体または精神に障害のある者に対して,その主体的な活動の獲得をはかるため行う作業活動を用いた治療法の一つである. 音楽を用いた作業療法には,能動的活動と受動的活動がある.能動的活動としては,歌唱や楽器演奏,音楽に合わせた身体の動作等を挙げることができる.能動的活動としては,鑑賞を挙げることができる.いずれも,発達障害や身体障害,精神障害,高齢者を対象とすることができる.能動的活動は,治療効果が高い代わりに,楽器の操作や発声の要求により対象者を限定したり,グループでの活動が要求されたりと活動に制約を受けるという問題もあった. そのため,能動的活動でありながら,容易に扱うことができ,達成感や満足感を得ることができる教材の開発が求められている. 本研究では,作曲をブロックの組み合わせで行うことによって,容易な操作でかつ達成感や満足感を得ることができるシステムを 提案する.作曲は,能動的活動であると同時に,作品を鑑賞するという受動的活動も併せ持っており,これまでにない作業療法のための教材を提供することができる.例えば,ブロックに,昔聞いたことのあるメロディを仕込んでおくことで,記憶をたどりながら曲を組み立てるといった教材も,容易に実現できる.提案のシステムには,我々が開発してきた,基盤技術を用いる.また作曲システムには,佐野芳彦氏考案による「サウンドセル」を用いる.サウンドセルは,曲を構成する小節間にある規則を利用してグループ化した曲の部品(セル)の中から,自由にセルを選択できるようにし,それらを組み合わせ作曲するシステムである.グループごとに用意したセルの数の積だけ異なる曲を作ることができる. 本研究は,以下のように推進している. (1)作業療法から見た音楽教材について,既存の調査文献資料を基に分析整理する. (2)身体または,精神に障害のある人を対象にした,作業療法のための音楽教材のあり方を検討する. (3)音楽療法に用いる音源を作成する. (4)音源にはmidiデータを用い,そのタイミングデータ記述に関する標準化を検討する. (5)IntelligentPadを用いてコンピュータ上にセル結合のプログラム(サウンドセルエンジン)を作成する. (6)コンピュータ外部で使用するブロックの設計を行う. (7)コンピュータ外部のブロックと連携してサウンドセルエンジンが動作するシステムを作成する. (8)サウンドセルを用いた作業療法教材のプロトタイプを実現する. (9)サウンドセルを用いた教材と様々なセンサーを組み合わせて,テンポや音程を変化させる機能を作成する.
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