本年度は、研究の基礎的段階と位置付け、(1)手法の理論的考察、及び(2)手法の実効性を確認する環境の整備を進めた。(1)に関しては、学習の進捗度(理解度テストの得点等)と学習者の行動との間の連関を評価する処理を、機械学習分野の一手法である強化学習(reinforcement learning)における信用割当(credit assignment)問題として定式化し、適格度トレース(eligibility trace)という手法を用いることで、連関がより明確に評価できる可能性があることを、過去の動画視聴実験データの分析から明らかにした。本研究の目的である、学習者の特性に対応したコンテンツの自動生成のためには、(1)学習者を、その視聴履歴により、学習者特性空間内に適切にマッピングする、(2)各特性クラスタ毎に、コンテンツの推奨される視聴順序付リンク集合を、実コンテンツとは切り離した形で構成する、(3)視聴順序付リンク集合にそったコンテンツを動的に実現する、という3過程が必要である。今年度の成果は、(2)の一部に相当し、コンテンツ理解度という重要かつ客観的な指標を特性空間属性に用いて、コンテンツの各部分に対応付けるものである。対応付け精度の向上が示唆されたことにより、手法全体の有効性向上が期待される。(2)の実効性確認環境に関しては、コンテンツ配信サーバ及び視聴クライアントのセットアップ、データ分析のための計算機環境を構築すると共に、ネットワークを介した遠隔視聴に関する基礎的なデータを収集中である。なお、より実際的なe-learning環境におけるデータ収集や有効性実証も企画している。青山学院大学ヒューマン・イノベーション研究センターにおいて、主に社会人向に提供されるe-learningコースのデータ分析や同環境下での手法の評価について、調整を開始した。
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