映像文法は、映画文法と同様、古代から脈々と伝承され、今日の語学や学校文法に用いられてきた、言葉を生みだすためのアウトプット指向の文法観基づいて記述されてきた。規範文法は、正しい表現を定め、規範的でない表現は禁止する点で、良い表現法とは何かを教えるが、その表現がなぜ良いかを説明しない。そのアウトプット側で表現を教える側からすれば、現代言語学が、科学的観点から言語学の記述を進め、規範文法の弱点である、なぜその表現が良いのかという合理的な説明を見出してくれるものと期待したが、科学的文法は、人間が生み出した過去の文章を対象に研究するインプット指向の範囲を越えない傾向にある。この点で、映像文法の研究には、アウトプット指向の文法を説明・記述すること、また、インプット指向の文法の観点の説明・記述法が必要となる。初年度は、インプット指向の文法研究を進めるべく、品詞レベルの表現構成単位として、認知言語学で用いられる新しいカテゴリー論に基づいて、相対的ショットサイズによる文法記述の研究を行った。また、映像の表現構成単位であるショットどうしの接続規則であり、古くから映像文法とされてきた、方向一致則について、文法学の格システムとの対比を行い、認識論的立場から、人の向き、フレーム中の人の位置が格システムと同等の働きをする点について研究を行った。また、総体的ショットサイズに基づく、ショットの遷移において、まず、場面の全体を示し、その一部を拡大する映像の場面分節表現について、事態の推定効率という観点から説明する方法について検討を行った。一方、初心者のカメラ操作を記録・収録するための装置については、データ収録ソフトウェアを開発し、データ収集、分類を行っている。
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