本研究は、個人が映像撮影技法を映像理論に基づいて独自に学習できる環境を技術的に自動支援する方法とともに、その技術を支える映像文法や映像メディア・リテラシーがどうあるべきかを探求することにあった。その本質的な問題としては、多様性を重んじる芸術・創造的表現の面と、むしろ多様性を排除し表現を矯正する観点が重んじられるように捉えられてきた文法の面が対峙してしまうことである。この矯正の文法観は、15世紀以降に発展し、現代に引き継がれた規範文法観に基づくものであり、19世紀の映画文法も規範文法を誤って基盤にしてしまったことがわかり、新たな観点から映像メディア・リテラシーを探求し、自動学習支援技術のあり方を問い直す必要が生じた。芸術系大学教員との交流を深め、映像の制作を教える観点や人材育成で、何が求められるかについて検討を進めたところ、メディア論の先駆者マクルーハンが残した視点に手掛かりを発見した。規範文法観は、15世紀のルネサンス三大発明の一つ、印刷技術の発明以降に起きた文字メディアの大量普及に基づく人間の思考変化によって生まれたものであり、一時・単一感覚の傾向が強まったが、それ以前の人間の言語親には、同時・多感覚性が存在した。文法概念もその当時の時代に生まれたものであり、文学の観点が含まれていた。また、映像文法の根源となる撮影・編集技法は、アメリカ映画の父、グリフィスによるが、グリフィスは文学に精通し、映画に文学の観点を持ち込んだ点もわかってきた。本研究の技術的探求は、CGモデルを撮影するカメラワークに関する撮影技法が中心となり、リアルタイム性の克服が依然技術的課題として残された状態にあるが、この一面だけの課題克服ではなく、同時・多感覚の観点から全体像を見直す必要性を感じ、課題克服の点で、同時・多感覚の観点が文法と芸術・創造の面を融合させる突破口になる可能性を見出した。この点で、平成23年度に採択された挑戦的萌芽研究「規範的文法観を払拭した映像文法に基づく同時・多感覚型コンテンツ生成空間技術の研究」において、一から芸術・創造的観点を包含した映像コンテンツの制作支援、人材育成支援技術を見直し、その後に撮影・編集技法学習自動支援技術の課題を再考・課題克服を目指す。
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