研究概要 |
杏雨書屋所蔵宇田川椿巷資料のうち化学に関する資料を、(1)『舎密開宗』未刊部分の最終稿と見なされる資料、(2)主要な化学書を翻訳した資料、(3)あるテーマのもとに,複数の化学書の翻訳からなる資料、(4)その他の4つに分類して調査を行ってきた。そのうち本年度は(2)の「主要な化学書を翻訳した資料」のうち、『舎密開宗』の原本であるCBL(Chemie,voor beginnende liethebbers,1803)のオランダ語への翻訳者であるイペイ(A.Ypey)がCBLの発刊の翌年から9年にわたって刊行したSHS(Sijstematisch handboek der beschoumende en werkdaadige scheikunde,1804-1812)は、宇田川榕菴による化学受容を知る上で最も重要な書物の一つである。本研究では、これまでこのSHSを底本とした自筆稿本が杏雨書屋所蔵資料のなかに存在するのかどうか、存在するとすればそれはどの稿本であり、SHSのいずれの部分の翻訳であるかの調査を行い、本年度はようやくその概要を以下のように明らかにすることができた。SHSの翻訳がかなりの比重を占めている稿本は、『舎密書残一巻』(乾5556-2)、『舎密加第一書土類一巻』(乾5563-2)、『土類舎密加』(乾5565)、『廣義巻一附録石譜一巻』(乾5558)、『金属舎密加一巻』(乾5550)、『舎密第一書金属一巻』(乾5582)、『舎密加』(乾6371)、『舎密第一書植物篇一巻』(乾5538),『廣義附録巻三植物分離法』(乾5558)『舎密加第一書一巻』(乾5563-1)の10種類であることが判明した。また、その特徴は、(1)自筆稿本で取り扱われているSHSの主な内容は、「土類」「金属」「植物から得られる物質」「動物から得られる物質」の4種類であること、(2)SHSの本文に相当する第1巻から第5巻だけではなく、その「改訂と補足」に相当する第6巻から第8巻の内容も翻訳も試みられていること、(3)SHSの1つの章に相当するような比較的まとまった分野を取り上げるときには,ほぼその全体にわたって抄訳した内容を稿本のなかに掲載しようと努力していること等の特徴をみてとることができる。
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