原爆被爆者調査とは何だったのか、その社会的意味を科学史的に明らかにするため、本年度も引き続き、とくに原爆投下直後から始まり占領開始期に組織化された日本側の原爆調査について重点的に調査・検討を進めた。そのうえで年度末には、3年間の研究成果を取りまとめ、報告書『原爆調査の歴史を問い直す』(全264ページ)を刊行することができた。 笹本征男『米軍占領下の原爆調査』をはじめとする先行研究の再検証をしつつ、これまであまり知られていなかった資料も発掘し、検討を加えた。それらの研究によって、学術研究会議「原子爆弾災害調査研究特別委員会」の設置をめぐる経緯や同特別委員会と米軍との協力関係などについて新たな知見を得ることができた。また、一連の研究を進める過程で、米軍マンハッタン調査団の来日の経緯や米軍による原爆をめぐる初期の調査報告の内容に改竄や隠蔽があったことが確認できた。さらに、原爆調査の日本側の中心人物となる都築正男の戦時中の活動についても調べた結果、都築と同仁会とのつながり、同仁会を通じて中国における陸軍と東京帝国大学医学部との浅からぬ関係の一端も窺えた。 なお、昨年度までと同様に、市民科学研究室の低線量被曝研究会メンバーの研究協力を得て、研究会をほぼ月1回のペースで開催し、研究会での議論を重ねながら、本研究を進め年度末に上記の報告書を研究成果として取りまとめることができた。また、2010年8月6日放送のNHKスペシャル「封印された原爆報告書」の取材に低線量被曝研究会として協力した。
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