1910-20年代のドイツでのハミルトン・ヤコビ理論の状況を調査し、ゾンマーフェルトが「天体力学で使うハミルトン・ヤコビ理論を物理の学生に教えなくてはならない」と述べた歴史的背景を明らかにした。天体力学でのハミルトン・ヤコビ理論とは正準変換の理論や作用・角変数を伴うものであること、ゾンマーフェルトが習熟していた数学でのハミルトン・ヤコビ理論に、そのような概念を付け加えて物理の学生が学ぶべき理論が提示されたことがわかった。ドイツでは、量子論に使えるようなハミルトン・ヤコビ理論は、量子論の講義のなかで導入されていた。したがって、その理論の日本への移入についても、1920年代に量子力学とともになされた可能性が高いこと、天体力学で使われていたハミルトン・ヤコビ理論は、こちらの導入とは独立に検討しなくてはならないことが明らかになった。 一方で、各大学の要覧等の資料だけからでは、日本での力学教育の内容に踏み込んだことまでは調べられなかったので、1930-1940年代の研究者から教育を受けた人たちに状況を尋ね、その当時日本で読まれていた力学の教科書を調査した。その結果、力学と題する教科書の多くは、工学で使うことを意識したものとなっていた。1930年代後半になると、ハミルトン・ヤコビ理論にかんする詳しい教科書がでてきた。このこととドイツでの状況を考え合わせると、量子力学の日本での普及とハミルトン・ヤコビ理論の普及との関連性を、具体的に示す必要があることがわかった。
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