本年度は、昨年度の研究成果を踏まえ、主として国内の天然記念物制度の元で自然保護を行っている地域について文献と現地調査を行った。 これは、昨年の台湾の調査によって、過去の天然記念物指定が現在の自然保護の状況においてどのような影響をもたらしたのかという論点が生じたため、比較のために国内調査を行ったものである。 具体的には千葉県成東・東金食虫植物群落の保護地域について、現地における民間の任意団体「食虫植物群落を守る会」の活動、植物学者からの観点、行政サイドからの観点と規制について、聞き取りと文献調査を行った。指定地域は大正時代に指定されたものが現在も引き続き保存地域として世界的にも希少な食虫植物群落の生育地となっている。しかし、それは単なる過去の状態が保存されているのではなく、一部地域の指定解除や、植物群落の衰退減少を経て、新たな保護管理計画が策定されたことによって、かろうじて維持されているのであった。種の保存の観点からは、環境条件を維持するために新たな装置や大型植物の根の掘り起こし、野焼きなどの維持管理が必要であり、また指定地の枠組みを超えた対策も必要であるということが判明した。また、指定地をめぐって、市民セクタ、学術研究セクタ、行政セクタの立脚点の相違がある中で、具体的な保護管理計画策定では、学術研究セクタが遂行し得ないほどの精密さと継続性を持って市民による調査が行われてきたことが明らかになった。 天然記念物制度が保護運動を進めていく上での強力なツールになる一方で、桎梏にもなりえる点は、自然保護運動の歴史を考える上での重要な論点になると思われる。また、「市民による植物調査」へのまなざしが時代により、また国内と植民地との違いにより、どう相違していたのかは今後解明する必要がある。
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