本年度は、1~2年次の研究成果を踏まえ、主として動物調査を行っている団体について文献と現地調査を行った。 これまで現地調査により台湾の天然記念物指定の歴史と現在、過去の天然記念物指定と現在の自然保護の取組みを検討し、思想的.社会的背景と知識の伝播について文献調査に基づいて考察を行った。今年度は、東京の多摩地域で活動するトウキョウサンショウウオ研究会を事例として、生息調査と生息域の保護について聞き取りを行うとともに、現在の生物調査について文献調査を行った。保護地域が定められておらず、開発が差し迫っている場所での生息調査は、個体数の把握等の基本的な段階から困難さを有する。これは特定のナチュラル・ヒストリーの専門家によっては達成することが出来ず、多数の「素人」の参加と継続的な協力を必要とするが、そのためには調査手法の標準化(マニュアル化)を要する。当該の事例は、こうした調査を比較的広域で行っていることとともに、10年以上の長期間にわたって同じような方法で調査が続けられているとともに保護活動と連動していることが特徴である。これを支えた専門家やオピニンオンリーダー、各地域における主導的な人物の役割と意識について調査した。 かつて、大正期~昭和初期の天然記念物保存運動の際に主唱者が唱えていた「郷土愛」という思想は全く皆無とはいえないが、現在ではこのような生物調査及び保護活動を支える動機付けは、異なった基盤の上に展開していると考えられる。生物とその生息地への愛着をもたらす思想的・社会的背景についてはさらに検討が必要であるが、現代日本における動物観・植物観、特に「野生生物」と人とのかかわりを分析するための視角を得た。このように現代の生物調査の実情と大正~昭和初期の国内外の天然記念物保存運動とを比較することにより、歴史的特性を浮かび上がらせるという成果を得ることができた。
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