昨年度、研究者全員で分析して方向性を定めた本画の復元方法をもとに復元模写を制作した。制作方法は、原本の折り目にあわせて制作した苧麻布を、木枠に張り込み下書き線を墨で写し、さらに下塗りの絵の具を塗布し、科学調査で検証した各種の顔料を用いて、復元彩色を施すという工程を採用した。 一連の研究によって、科学的な裏付と技法材料の検証を行いながら復元模写を行うことで、これまで主観的で曖昧であると考えられていた模写に対して、高い学術性を付加することが可能になった。科学調査も明確な目的をもって行うことで、資料として利用価値が高まることが確認できた。 また最終年度として、これまで進めてきた研究成果を発表することとし、奈良薬師寺の大宝蔵殿において「薬師寺吉祥天画像」のオリジナルと技法研究の成果を踏まえた復元模写の比較展観を実施した。これらのことを通して、現状を科学分析、高精細画像処理、美術史学、描画技法を通じて精査し、情報を総合したうえで、原本と同素材同技法で学術的な復元模写を制作することが可能となり、これまで独立して行なっていた文化財科学、美術史学、制作技法研究の3分野の情報を統合し互いの情報の不足部分を補完しあう形で1つの復元模写を完成することができることが明らかとなった。
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