京都市伏見城の周辺にあった古寺の墓地から発掘された約500人分の江戸時代人骨(伏見人骨資料)を研究対象として、自然人類学の研究手法で多角的に分析し、各種の情報を収集する実務作業を実質的に完了した。それらは、江戸時代の京都町民像を復原する身体特徴、健康状態、疾病履歴、生活の質、人口学的パラメーターに関する情報であるが、それらの詳細なデータベースを構築するとともに、データファイルのかたちで印刷公表した。このファイルは伏見人骨資料を網羅しており、死亡推定年齢や性別などを含む人口学的な基礎資料、頭骨と四肢骨の計測値、同じく頭骨や体肢骨での非計測項目の観察値、歯の計測値、歯の齲歯と歯周症の観察値、加齢性の椎骨骨増殖性症候群や骨梅毒の病変記録、炭素と窒素の安定同位体比、鉛などの微量元素の定量値などが収められている。これらのデータを今後、逐次、各種の統計的方法で分析することにより、日本近世史や江戸学などの歴史的方法によって示される江戸時代の町民像に関する通説を人類学的に検証、反論、補強するための定量的な数値情報を引き出すことになる。それが次年度以降の研究目標となる。いずれにしても、今後、個別テーマに関する分析を可能とするデータファイルを作成したことで、今年度の目標は完全に遂行できたような次第である。
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