研究概要 |
濃尾平野や関東平野のように,氷河性海水準変動の影響が直接に及んできた沖積平野では,過去7000年間における河川の堆積作用による地層の累重が顕著である。このため,新しい堆積物によって,7000年前以前に形成された変動地形は埋積され,その存在を認知することすら困難である。しかし,こうした臨海堆積平野には,人口やインフラが集中しており,災害に強い土地利用を計画・実行するうえで,こうした変動地形の認定は極めて重要である。綾瀬川断層,養老断層を対象として,地形,表層地質調査,文献レヴューを行い,とくに河川による土砂移動プロセスと活断層の活動との関係に着目した検討を進めた。その結果,綾瀬川断層では,最終氷期の海面低下期に形成された埋没段丘面群と沖積層基底礫層の堆積面(埋没谷底面)を横断する位置において,明瞭な断層上下変位を見出すことができた。養老断層では地震動による土石流発生と沖積錐の成長が繰り返され,断層崖を埋積してきたこと,地震性沈降による平野側の高度低下が継続するために,沖積錐は上方へ成長し,断層崖の累積変位地形を埋積しやすいことなどが明らかになった。さらに,日本全国の主要河川の縦断方向の沖積層の層厚変化を吟味した結果,沖積層の平面分布が河川規模の割合に顕著な流域では,層厚が厚く,楔状をなしておらず,地震性沈降が堆積場形成に影響を与えてきたことが示唆された。以上の成果は,直下地震の長期的活動性評価に資するとともに,沖積層発達域では液状化現象などが発生しやすく,海溝型巨大地震による地盤変動に対する脆弱性評価にも貢献する。
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