本研究は大都市近郊農村を対象にして、農地や谷戸、および里山や林地などの緑地空間の再編をグリーントリフィケーション(greentrification)として捉え、その創成メカニズムと持続性を明らかにすることを目的としている。グリーントリフィケーションとは「緑地空間の再編・美化」や「緑地空間価値の高度化」ともいわれるもので、その概念の世界的な浸透は農村や農山村における緑地空間の経済的な価値だけでなく、非経済的な価値を見直す機運と呼応していた。大都市圏におけるグリーントリフィケーションを緑地の重要性や余暇的意義から類型化すると、大都市近郊型と大都市近郊外縁型、および大都市遠郊型に大別できた。大都市近郊型の事例研究では、里山保全活動を基盤としたグリーントリフィケーションのメカニズムを明らかにした。具体的には、里山を農村空間の要素とするコミュニティと、余暇空間の要素とするコミュニティとが協働することにより、グリーントリフィケーションが成立発展することがわかった。これらのコミュニティの協働が社会的持続性となって地域に反映され、地域の活性化とソーシャルキャピタルの高度化を生みだすことがわかった。一方、グリーントリフィケーションが農村空間の新たな再編を生みだすことも明らかにした。その典型的な事象として、オーストラリア・シドニー大都市圏遠郊のハンターバレーにおけるワイン・フードツーリズムの研究を行った。ハンターバレーの農村では、農村空間や農業生産のグリーントリフィケーションを基盤にして、農産物販売-スローフード-農村観光-グルメを統合することでフードツーリズムを発展させ、農村空間の再編を確かなものにしてきた。
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