(1)研究の背景 ポスト生産主義の農村研究の動向のなかで、農村の生態環境(農地、牧草地、林地などを含めて)の再編に関する議論の必要性が1990年代後半に提案された。その結果、農村の生態環境としての緑地空間の再編を議論するグリーントリフィケーション(greentrification)のフレームワークが示された。ヨーロッパにおけるグリーントリフィケーションの議論は、条件不利地域における不耕作地や荒廃林地の美化や有効利用を通じて、あるいは大都市近郊農村における緑地環境の保全と適正利用を通じて行われ、緑地や農地を含む農村の生態環境が経済環境と社会環境に相互関連していることを明らかにしてきた。このように、農村の生態環境を中心にと経済環境と社会環境を関連づけることにより、農村再編の議論はより実際的で具体的なものとなった。しかし、農村の生態環境と経済環境、および社会環境をどのように関連づけるかの議論は現在まで残された課題となっており、その課題を明らかにすることが本研究を始める契機となった。 (2)研究目的 本研究は大都市近郊農村を対象にして、農地や谷戸、および里山や林地などの緑地空間の再編をグリーントリフィケーションとして捉え、その創成メカニズムと持続性を明らかにすることを目的としている。グリーントリフィケーションとは「緑地空間の再編・美化」や「緑地空間価値の高度化」ともいわれるもので、その概念の世界的な浸透は農村や農山村における緑地空間の経済的な価値だけでなく、非経済的な価値を見直す機運と呼応している。 (3)研究内容と手順 グリートリフィケーションの実態を把握し、その創成メカニズムと持続性を明らかにするため以下の手順で研究を進める。 (1)東京大都市圏におけるグリーントリフィケーションの実態を把握するため、土地利用データからグリーントリフィケーションの類型化を行う。また、グリーントリフィケーションの類型を一般化するため、世界の主要な大都市圏におけるグリーントリフィケーションとの比較検討も随時行う。 (2)大都市圏におけるグリーントリフィケーションの実態を実証的に調査し、グリーントリフィケーションの創成メカニズムを明らかにする。実証研究の対象はグリーントリフィケーションの類型に基づいて決定し、内外の事例研究に基づく地域比較も行う。 (3)グリーントリフィケーションの創成メカニズムが農村地域にどのような効果や影響をもたらすのかを事例地域に基づいて実証的に明らかにする。その際、グリーントリフィケーションの担い手や持続性に注目し、それらが農村再編にどのような効果や影響をもたらすのかを検討する。 (4)グリーントリフィケーションの創成メカニズムとその持続性の一般化を事例研究の比較検討に基づきながら行うとともに、グリーントリフィケーションによる農村再編や地域づくりの効用も一般化する。
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