研究課題
乾燥かつ寒冷な気候環境の中、モンゴル高原では数千年にわたって遊牧が行われてきた。牧民は草と水を求めて家畜と共に季節的に移動する。近年、その移動が、土地への負荷の分散や自然災害からの回避につながるとして、遊牧の持続可能性が再評価されつつある。一方で1999/2000年以降3年連続の深刻なゾド(寒雪害)により家畜頭数が3年間で29%減少して遊牧の存続が危ぶまれるようになった。遊牧の伝統を無批判に肯定する必要はないが、その経験は軽視すべきではなく、最新科学によって再検証する価値がある。伝統的知識の有用性を抽出できれば、それを積極的に草原の管理などに活用し、自然災害対策に盛込み、遊牧を発展させることにも役立つはずだからである。筆者らは、遊牧に関する伝統的知識を科学的に検証することを目的に、モンゴル国北部の森林草原地帯にあるボルガン県で調査を実施している。2008年度は、牧民が「冬場はより暖かい場所を選んでゲルを設営する」という土地利用に関する伝統的知識を検証するために、優秀な牧民として表彰された経験もあるチョローン氏がゲルを設営する冬営地と夏営地の気象条件の違いを、両地点における気温の連続観測のデータから明らかにした。冬営地は丘の中腹、夏営地は谷底の川の傍にあり、標高はそれぞれ1492mと1300mで、192mの標高差がある。2007年8月25日から2008年3月24日の1時間ごとの両地点の気温のデータでは、両地点の気温差は、特に厳冬期の最低気温に顕著で、冬営地の方が標高が高いにも関わらず最大10.2度高温であった。気温の日変化では、夜間の差が最大になっており、盆地底の接地逆転層を避けた斜面温暖帯に冬営地が設置されていることを示唆している。モンゴルの家畜は寒冷な気候に適応しているとはいえ、-30度以下では採食が困難になることが知られているが、冬季の気温が-40度前後まで下がる調査地で牧民が微地形を巧みに利用して、家畜を飼養している事例を抽出することができた。
すべて 2009 2008
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件) 図書 (2件)
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