研究概要 |
本研究の目的は,優れたスポーツ選手の特徴の一つである「状況の変化に応じて実行中の運動を柔軟に修正できる能力」を向上させる認知トレーニングを開発することである.そのため,本年度の研究においては,運動修正技能における抑制機能の役割に焦点をあて,打球運動の初級者を対象に,抑制機能を促進する2つの学習方法が運動修正の効率に与える影響を検討した 課題は急激な速度変化を伴う一致タイミング課題を用いた.この課題で高いパフォーマンスを発揮するためには運動タイミングの修正が必要となる.学習方法の一つ目として,知覚弁別学習を採用した.この群の被検者は,速度変化を検出したらできるだけ素早くボタンを押すことが要求された.この方法は,運動が抑制されるか否かは,反応実行の指令よりも反応抑制の指令が早期に中枢で処理される必要があるというルールに基づいている(Loganら,1984).すなわち,知覚弁別学習により速度変化をいち早く感知できれば,それだけ抑制の処理が早期に実行され,運動修正の効率を高める可能性がある.もう一つは抑制要求を直接高める学習方法である.この群は,速度変化が生じたらボタンを押さないように反応を抑制することが要求された.この方法は,反応を停止する場合には抑制に関する脳活動が強く活性するというルールに基づいている(Kokら,2004).環境の要求に対して脳は高い可塑性を持つため,高い抑制要求は,運動修正時の抑制活動を亢進する可能性がある.これら両者の学習効果の大きさを比較検討するため,統制条件として減速条件を通常に行う学習群を設けた.その結果,知覚弁別群と抑制群は学習前後の運動修正率を向上させた.一方,統制群は変化が見られなかった.以上から,運動修正技能を向上させる学習として,知覚弁別学習および高抑制要求学習といった抑制に焦点を当てた方法は有効であるといえる
|