本研究では、NR2Bサブユニットのシナプスにおける左右非対称分布が、生物学的にどのような意義をもつかについて明らかにすることを目的としている。本年度は海馬で見出された左右差は海馬特異的な現象なのか、それとも他の脳領域にも存在しうるのかを明らかにする。その為に、海馬の出力であるCA1錐体細胞からの投射を形態学的に解析する。海馬CA1錐体細胞からの出力を特定するために、レンチウイルスによる脳領域選択的外来遺伝子発現系を用いる。しかしながら、ウイルス感染による外来遺伝子発現についてはその発現領域を限定することが通常容易ではない。そこで電気生理学的に細胞外応答を記録することで海馬錐体細胞層を特定し、海馬CA1領域にのみ広がる程度のウイルス注入量を決定した。この技術を用いて海馬CA1-CA1シナプスのスパイン形態およびPSD領域の大きさを左右で比較解析した結果、CA1-CA1シナプスは形態的特徴においては左右差が失われていることが明らかになった。このことは、海馬の左右差は主にCA3錐体細胞が持つ特徴であり、CA1錐体細胞には左右性が無い可能性が示唆されている。また、ivマウスの行動解析に関して、行動解析には遺伝的背景の揃った同日生まれのマウスが40匹以上必要である。遺伝的背景をC57BL/6に揃える過程で、不妊および育児放棄が発覚し、十分な頭数が得られないことが判明した。そこで、人工授精および胚移植による繁殖を試みたが、そもそも発生異常を起こしやすい系統でもあるためか、行動解析が実施出来るほどのマウスを確保することができなかった。原因として考えられるのが、長期間にわたり同系統内での掛け合わせを行ってきた為にバックグラウンドの遺伝子に変異が蓄積し、それが生殖や保育に影響を与えているのではないかと推測される。
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