研究概要 |
亜酸化窒素(N_2O)ガスは微量大気成分(310ppbv)の一つであるが、CO_2の150倍もの温室効果をもち、地球温暖化現象への寄与は大きい。大気中に放出されるN_2Oガスの2/3は海洋からのものであり、その総量は年間4TgNにのぼるが、海洋性アンモニア酸化細菌(ammonia-oxidizing bacteria:AOB)が、その主たる放出源と考えられている。AOBによる硝化作用の副生成物としてN_2Oガスが発生することは古くから指摘されているが、その分子的メカニズムはまだ明らかとなっていない。本研究の目的は、海洋性AOBによる、海洋環境におけるN_2O生成の分子機構を解明することである。アンモニアは,アンモニア酸素添加酵素AMOによりNH_2OHに変換され,次いでNH_2OH酸化酵素であるHAOの作用によってさらにNO_2^-に4電子酸化される。この酸化反応が効率的に進行しなくなると,NO_2^-のかわりに不安定な中間生成物である'NOH'が生じ,NH_2OHとの反応によってN_2Oが生成すると予想される。 このメカニズムを検証するため,N.oceani NS58を用いたボトル培養実験を行った。ECD-GC分析の結果,好気条件下で,1細胞あたり120amol/dayのN_2O生成が観測され,この値を用いることで,海洋からのN_2O生成を十分説明できることがわかった。またNS58から精製したHAOを用いたin vitro実験によって,NH_2OH酸化反応に必要な電子受容体の不足が,実際にN_2O生成を引き起こすことが示された。さらに、アイソトポマー分析により、in vitro反応によって生成したN_2OのSitePreference値(非対称な分子であるN_2O(O-N^α-N^β)中の2原子の窒素における同位体分別効果の違いを表す数値:δ^<15>N^α-δ^<15>N^β)として+38‰が得られた。これは、高いSP値を示すN_2Oを硝化菌由来とする従来の仮定を実証する実験結果である。さらに、N.oceani NS58のHAOの結晶化に成功し、3Å程度の分解能でX線回折像が得られており、現在は結晶化条件の改良と構造解析を進めている。
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