大陸から海洋に流入する金属元素などの陸源物質は沿岸海洋の生態系をコントロールする重要な要因の1つである。本研究では、ベーリング海、オホーツク海への陸源物質の流入の時系列変化とその変動要因を探るため、海洋堆積物中の金属元素同位体の利用を試みた。特に、沿岸海洋に流入する陸源物質の起源・流入量の指標として微量金属元素Sr、Nd、Pbの同位体、Feの安定同位体に着目し、陸域の環境変化が沿岸海洋に与える影響を探った。 平成21年度までに、(a)堆積物中の鉄マンガン酸化物および炭酸塩(溶存態起源)と、(b)堆積物中の珪酸塩砕屑物の、それぞれのSr、Nd同位体を分析し、(a)、(b)のデータの対比から、海水起源(溶存態起源)のSrやNdの同位体組成が示す地球化学的な意味を検討した。この海水起源成分に関する研究成果の一部は、平成22年度に国際誌Geologyに掲載された。また、現世ベーリング海堆積物中の珪酸塩砕屑物のSr、Nd同位体のマッピング(地域分布)、さらに、北極圏陸域の大陸氷河や永久凍土の融解による表土流出と沿岸海洋への流入・堆積の関連について検討するため過去100~200年間のベーリング海堆積物の同位体変動(経年変化)解析を進めた。これらの研究成果は国際誌に投稿中である。さらに平成22年度は、アムール川からオホーツク海に流れ込む鉄の供給源の解明のため、Feの安定同位体分析法を確立し、オホーツク海沿岸堆積物中のFe同位体を分析した。その結果、沿岸堆積物中の溶存態起源成分の中に非常に"軽い"Fe安定同位体組成を示すものが見られた。これはアムール川から供給される鉄との関連性を示唆する新たな発見である。
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